大判例

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大阪地方裁判所 平成7年(ワ)5294号 判決

原告

甲野太郎

右訴訟代理人弁護士

田窪五朗

橋本二三夫

被告

日本電信電話株式会社

右代表者代表取締役

児島仁

右訴訟代理人弁護士

真砂泰三

岩倉良宜

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  原告と被告との間において、原告が労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

2  被告は、原告に対し、二九五万六九七二円及びこれに対する平成七年六月七日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

3  被告は、原告に対し、平成七年六月以降、毎月二〇日限り、月額四〇万八七九八円の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は被告の負担とする。

5  第2、第3項につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、被告(当時の名称は、日本電信電話公社であった。以下「被告会社」ともいう。)との間で、昭和四六年四月一日、雇用契約を締結した。

2  原告の給与(通勤手当及び住居手当を含む。)は毎月二〇日払いであり、平成六年七月から同年九月の平均賃金は四〇万八七九八円であった。

3  しかるに、被告は、平成六年一〇月一三日、原告を諭旨解雇に処したとして、その従業員としての地位を否定している。

4  よって、原告は、被告に対し、原告が被告会社との間で労働契約上の地位を有することの確認を求めるとともに、平成六年一〇月一四日から平成七年五月三〇日までの間の賃金である二九五万六九七二円と、これに対する訴状送達の日の翌日である平成七年六月七日から支払済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金及び平成七年六月以降毎月二〇日限り月額四〇万八七九八円の割合による賃金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

すべて認める。

三  抗弁(解雇)

1  和田浩二課長(以下「和田」という。)らに対する恐喝等

(一) 原告は、平成二年二月二〇日、被告会社の淡路ネットワークセンターに旧知の今川稔部長(以下「今川」という。)が転勤してきたことから、挨拶に伺うため同センターに赴き、池田総務課長(以下「池田」という。)に右部長の所在を尋ねた。しかし、原告は、右池田の指示に立腹し、その後、右池田のもとに戻ってきて、「ちゃんと教えというたやろ。」等その指示が誤っていたなどと因縁を付け、職場で大声を出した。

そこで、同センターの労務厚生課長であった和田及び北野労務厚生係長(以下「北野」という。)が止めに入ったところ、原告は、右和田らに対し、「この喧嘩はお前が買うのやな。自分は個人的にけじめをとるべく攻撃する。」等と申し向け、同年三月上旬から同月一〇日ころまでの間、和田の自宅に無言電話などの嫌がらせ電話をかけたほか、同月一〇日、和田、北野と個別に面談し、和田に対し、「あんたのしたことは家族全員に責任がある。妻、子供、両親を連れてきて、俺の前で土下座して謝れ。」等と暴言を吐き、さらに、「一〇万円位だけど半分に負けといたる。」と金員を要求して恐喝行為に及んだ。

(二) 原告の右行為は、被告会社就業規則六九条四項(職務上の規律を乱し、又は乱そうとする行為)、一一項(社員として品位を傷付け、又は信用を失うような非行)、一三項キ号(会社施設内において、風紀秩序を乱すような言動)に該当する。

2  生駒新太郎副支店長(以下「生駒」という。)に対する嫌がらせ電話

(一) 原告は、平成三年二月六日、被告会社の大阪淡路支店の山田営業課長(以下「山田」という。)、副支店長の生駒と居酒屋で飲酒雑談していた際、生駒が、「よい仕事をしようと思えば、まず家庭を持つ人生が必要だ。」という趣旨の発言をしたことに立腹し、同日深夜から同月二五日までの間、多数回にわたり、被告会社の業務電話を使用し、時には、呼びっぱなしにするなどして、生駒の自宅に嫌がらせ電話をかけた。

(二) 原告の右行為は、被告会社就業規則六九条五項(故意に業務の正常な運営を妨げる行為)、一一項(社員として品位を傷付け、又は信用を失うような非行)に該当する。

3  高木勝浩従業員(以下「高木」という。)に対する恐喝行為

(一) 原告は、平成三年三月六日午前八時三〇分ころ、被告会社の大阪淡路支店で始業準備をしていた同僚の高木に対し、お客様フロアの照明がついていなかったことを咎めたところ、コンピューターのシステムを立ち上げ中であった高木が、気が付いた人がつけたらいいのではないかといった趣旨の発言をしたことに激怒し、「なんやコラ、誰に言うてんねん。」と怒鳴りながら高木の所に走ってゆき、受付席にあるお客様用の椅子を持ち上げて同人にぶつけようとした。

さらに、原告は、同日から被告会社の業務用電話を用いて、高木の自宅に多数回にわたり嫌がらせ電話をかけたほか、数日後、同人に対し、「許してほしければ妻、兄弟、親全員呼んで全員で土下座して謝るか、誠意を見せろ。」等暴言を吐き、「お前は若いし、一〇万円で勘弁してやる。一度に無理なら月々一万円でもかめへんぞ。」と金員を要求する恐喝行為を行った。

(二) 原告の右行為は、被告就業規則六九条一一項(社員として品位を傷付け、又は信用を失うような非行)、一三項キ号(会社施設内において、風紀秩序を乱すような言動)に該当する。

4  西村章従業員(以下「西村」という。)に対する恐喝行為

(一) 原告は、平成三年九月一八日、同僚の西村が運転する自動車に同乗中、紙カップに入れていたコーヒーがこぼれて原告の衣類にかかったことに立腹し、同月二一日朝、同人に対し、「靴下代一〇〇〇円と迷惑料一万円」名下に金員を要求し、さらに、同日午後には、西村の態度がよくないといって迷惑料の請求を五万円に増額した。

西村は、同月二四日、原告の右要求を拒絶したところ、原告は、同日から同年一一月末ころまで、同人宅に嫌がらせ電話をかけたり、同人の面前で同人の子供が通学している学校に嫌がらせ電話をかけたりしたほか、同月二七日にはビラを張るために同人宅に押しかけ、帰宅した西村に、「誠意を見せろ。」、「逃げ得は許さん。」等大声で罵声を浴びせるなどの嫌がらせ行為・恐喝行為を行った。

(二) 原告の右行為は、被告会社就業規則六九条一一項(社員として品位を傷付け、又は信用を失うような非行)に該当する。

5  獅子田治雄東淀川営業所長(以下「獅子田」という。)に対する脅迫行為

(一) 原告は、平成四年一月二三日、被告会社淀川支店及び東淀川営業所の新年会の席において、獅子田が、「原告を隣に置いたほうが行動がよく分かる」との趣旨の発言をしたことに関連して、翌二四日、東淀川営業所所長室に押しかけた。獅子田が、その際、原告の行動及び営業の仕方等について指導をした過程において、原告を、「お前」と呼んだところ、原告は、これに激怒し、「全面戦争だ。徹底的にやる。俺は戦争だと行ったら徹底的にやるからな。」との暴言を吐き、獅子田の女性従業員に接する態度がセクハラであると因縁つけ、右事実を同人の妻に告げてやると脅迫したうえ、同人宅に電話をかける嫌がらせ行為を行った。

(二) 原告の右行為は、被告会社就業規則六九条一一項(社員として品位を傷付け、又は信用を失うような非行)、一三項キ号(会社施設内において、風紀秩序を乱すような言動)に該当する。

6  山添裕史従業員(以下「山添」という。)に対する暴行行為

(一) 原告は、平成四年一一月九日午前一〇時ころ、被告会社の東淀川営業所において、山添に対して訃報連絡票をコピーして回覧するように指示したにもかかわらず、右回覧が遅れたことについて立腹し、同人の頭を二、三回手で叩いた。原告の右行為により、山添は椅子から押し倒されるような状態になり、同人がかけていた眼鏡もはずれたため、同人が、「警察を呼びますよ。」と言ったところ、原告は、これに激昂して、同人の胸ぐらを掴んで引っ張って椅子から立ち上がらせ、同人の股間を蹴り上げる暴行を加えた。

原告は、山添に対する右暴行行為により、罰金七万円の刑に処せられた。

(二) 原告の右行為は、被告会社就業規則六九条一一項(社員として品位を傷付け、又は信用を失うような非行)、一三項キ号(会社施設内において、風紀秩序を乱すような言動)に、暴行罪で確定した事実につき、同条一項(法令に違反したとき)に該当する。

7  山添に対する強要行為

(一) 原告は、平成四年一一月九日午前一〇時五〇分ころ、山添に対し、前記抗弁6(一)の暴行行為に関して、「愛のムチをありがとうございました。今後ともご指導よろしくお願いします。」との内容の文書を書くように原稿を示し、「お前がやる気なら徹底的にやるからな。」などと強要し、拒絶すると何をされるか分からないと畏怖している同人に、右内容の文書を書かせた。

(二) 原告は、山添に対し、同月一一日にも、「甲野さんが私に暴力を振るった様に言われていますけど、あれは愛のムチです。暴力ではありません。今後とも甲野さんに御指導をお願いするつもりです。」旨の淀川支店長宛の文書を書くことを強要し、拒絶すると何をされるか分からないと恐怖している同人に右内容の文書を書かせた。

(三) 原告の右各行為は、被告会社就業規則六九条一一項(社員として品位を傷付け、又は信用を失うような非行)、一三項イ号(強要して、その就業を妨げたとき)、同項キ号(会社施設内において、風紀秩序を乱すような言動)に該当する。

8  山添に対する強要行為

(一) 原告は、平成五年四月一三日午後一時四〇分ころ、山添に対し、同人に仕事上のミスが多く、東淀川営業所では無用の従業員であるとして、転職希望調書を書くように強要し、同人にこれを書かせた。

(二) 原告の右行為は、被告会社就業規則六九条一一項(社員として品位を傷付け、又は信用を失うような非行)、一三項イ号(強要して、その就業を妨げたとき)、同項キ号(会社施設内において、風紀秩序を乱すような言動)に該当する。

9  山添に対する強要行為等

(一)(1) 原告は、山添に対し、平成五年四月一六日ころ、東淀川営業所において、「本日から心を入れかえて基本動作基本作業を確実に実行します。以前とかわらなければ責任を取って退職いたします。その時期は甲野さんにおませかします。」との内容の「誓約書」(以下「本件誓約書」という。)を書くように強要して同人にこれを書かせたうえ、同人に周囲の従業員の前で読み上げさせ、さらに、同月一九日朝のミーティングにおいて本件誓約書を読み上げさせるよう強要した。

(2) 原告の右行為は、被告会社就業規則六九条四項(職務上の規律を乱し、又は乱そうとする行為)、一三項イ号(強要して、その就業を妨げたとき)、同項キ号(会社施設内において、風紀秩序を乱すような言動)に該当する。

(二)(1) しかし、原告は、平成五年四月一九日朝のミーティングにおいて、山添が本件誓約書の「以前とかわらなければ責任を取って退職いたします。その時期は甲野さんにおまかせします。」との部分をそのまま読み上げず、「一生懸命頑張りますのでよろしくお願い致します。」と読み替えたことに立腹し、同人を営業担当のフロアから追い出して排除するとともに、本件誓約書のコピー二通を被告の許可なく東淀川営業所に掲出した。

(2) 原告の右行為は、被告会社就業規則六九条四項(職務上の規律を乱し、又は乱そうとする行為)、一三項イ号(強要して、その就業を妨げたとき)、同項カ号(会社施設内において、許可なく貼紙、掲示)に該当する。

10  向阪政利営業課長(以下「向阪」という。)に対する名誉棄(ママ)損行為等

(一) 原告は、前記ミーティングにおいて、山添が本件誓約書を原告の指示どおり読み上げなかったことに激怒し、「誓約書の内容と違う。字も読めないのか。犬よりも劣る。脳の移植をしてもらえ。」等暴言を吐き、「これは誰かの入れ知恵だ。」、「山添を退職に追い込む。入れ知恵した者を徹底的にやる。」と大声をあげて宣言し、右ミーティングを実施できなくした。

(二) さらに、原告は、山添が自分の意に従わなかったことを向阪の入れ知恵と決めつけ、翌平成五年四月二〇日、朝のミーティングにおいて、同人を誹謗するビラを掲示する旨を宣言し、当日朝勤務時間中に職場を離脱したうえ、淀(ママ)川営業所長及び総務担当課長の制止も無視して、前記山添の本件誓約書のコピー八枚を東淀川営業所内に掲示し、さらに「NTT東淀川営業所の課長「向阪」は社員の山添をワナにはめて退職に追い込もうとしている。」との向阪を誹謗中傷する内容のビラ(以下「本件ビラ1」という。)を作成のうえ、これを東淀川営業所内に二枚掲示し、同僚の鈴木清嗣従業員(以下「鈴木」という。)を強要し、被告の社用車を使用して、右ビラを同営業所周辺及び淀川支店周辺の電柱等に六枚公然と掲示し、よって向阪の名誉を毀損したうえ被告会社の信用を害し、かつ、職場秩序を混乱させた。

(三) 原告の右行為は、被告会社就業規則六九条三項(上長の命令に服さない)、四項(職務上の規律を乱し、又は乱そうとする行為)、一一項(社員として品位を傷付け、又は信用を失うような非行)、一三項ア号(みだりに執務場所を離れ、勤務時間を変更)、同項イ号(強要して、その就業を妨げた)、同項カ号(会社施設内において、許可なく貼紙、掲示)、同項キ号(会社施設内において、風紀秩序を乱すような言動)に該当する。

11  向阪及び高橋義昭東淀川営業所長(以下「高橋」という。)に対する名誉棄(ママ)損行為等

(一) 原告は、平成五年四月二一日午前八時二〇分ころ、被告側が本件ビラ1を撤去したことに激怒して東淀川営業所所長室に押しかけ、高橋、松崎宏允総務課長(以下「松崎」という。)及び向阪に対し、「ビラを剥がすなと言っておいたのに剥がした、それならさらにビラを増やす。」などと一方的に怒鳴り散らした。

そして、原告は、高橋が注意・制止したにも係わらず、午前の勤務時間中に、被告会社のコピー機を使って本件ビラ1に向阪の自宅の電話番号を記入して「自宅に抗議の電話をかけてください。」と付記したビラ(以下「本件ビラ2」という。)及び原告が社外に掲出したビラを被告が撤去したことを表現の自由を侵害したものと決めつけて、「NTT東淀川営業所長の「高橋義昭」は憲法違反をした。自宅に抗議の電話をかけてください。」との記載に高橋の自宅の電話番号を付記したビラ(以下「本件ビラ3」という。)を作成し、その日の午後から半日の年休を取得して、阪急上新庄駅周辺(被告会社淀川支店周辺)、同下新庄駅周辺(同東淀川営業所周辺)と吹田市千里山周辺(高橋所長の自宅周辺)に合計二六枚を掲示した。

(二) 原告の右行為は、被告会社就業規則六九条三項(上長の命令に服さない)、一一項(社員として品位を傷付け、又は信用を失うような非行)、一三項ア号(みだりに執務場所を離れ、勤務時間を変更)、同項キ号(会社施設内において、風紀秩序を乱すような言動)に該当する。

12  山添に対する暴行傷害行為

(一) 原告は、平成五年四月二一日午前八時二五分ころ、東淀川営業所二階の更衣室内で更衣中、山添が出勤してきたことを発見するや、同人に対し、「ワレ、何しに来とんじゃ、お前みたいに役に立たない奴は出ていけ。」などと申し向け、同人の服の両前襟を掴み、またその下腹部を蹴ろうとしてこれを防ごうとした同人の右手甲に足を当てる暴行を加え、さらに、更衣室から逃げ去ろうとした同人の右大腿部あたりを蹴る暴行を加え、よって、同人に右手関節打撲等で通院加療七日間を要する傷害を与えた。

(二) 原告の右行為は、被告会社就業規則六九条一一項(社員として品位を傷付け、又は信用を失うような非行)、一三項キ号(会社施設内において、風紀秩序を乱すような言動)に、暴行の事実につき同条一項(法令に違反したとき)に該当する。

13  向阪及び高橋に対する名誉棄(ママ)損行為等

(一) 原告は、平成五年四月二二日朝の出勤途中、阪急下新庄駅から東淀川営業所周辺に本件ビラ2及び3を合計六枚掲示した。

(二) 原告の右行為は、被告会社就業規則六九条三項(上長の命令に服さない)、一一項(社員として品位を傷付け、又は信用を失うような非行)に該当する。

14  原告は、過去に右のとおり暴行事件、同僚、上司に対する嫌がらせ、恐喝、強要行為、暴言及び不当なビラ掲出行為を繰り返し、再三注意を受けたにも係わらず、なお、被告会社の内外において非違行為を繰り返し行ってきたものであり、被告会社就業規則六九条一四項(再三注意をされてなお改悛の情がない)に該当する。

15  よって、被告会社は、原告に対し、平成六年一〇月一三日、原告を諭旨解雇とする旨の意思表示をした。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1について

同1のうち、原告が、平成二年二月二〇日、被告会社の淡路ネットワークサービスセンターに旧知の今川が転勤してきたことから、挨拶に赴いた際、居合わせた池田に今川の所在を尋ねたことは認めるが、その余は否認する。

原告は、今川の所在を尋ねた際、池田に対し、併せて簡単な地図を書いてくれるように申し入れたが、同人は地図を書かなかった。そして同人の説明が誤っていたため、原告は今川に挨拶後、その旨を伝えるために池田の席に戻ったところ、和田及び北野は、原告に対し、事情も聞かないままにいきなり、大声で威圧するように、「お前、どこのもんや。」と怒鳴ってきた。原告は、「淡路支店営業の甲野です。」「私のことは今川部長から聞いてください。」と答え、間もなく今川が来てその場は納まったが、池田、和田及び北野からは原告に対して何らの対応もなされなかった。

このため、原告は、和田に対して、威圧するように大声を発したことについて謝罪を求めようと、翌二一日土曜日、同人の自宅へ二回にわたって電話をかけ、同人の妻に、同人の帰宅次第電話をかけてくれるように依頼した。

その後、和田が横田淡路副支店長とともに、原告の席に出向いてきたので、原告は、和田と休憩室において一〇分程度話合い、同人がいきなり大声を発したことについて謝罪を求めた。その際、原告は、和田に対し、「誠意を見せてほしい。」、「家族皆連れて謝罪に来てもらってもいいくらい。」、「(迷惑料は)五万円くらいの価値はある。しかし金品の問題ではない。」と言ったが、原告には金品を要求する意図も、その事実もない。

2  抗弁2について

すべて否認する。

原告は、平成三年二月六日、生駒から二回にわたり、「お前は俺の酒が呑めんのか。」とからまれたため、「人が呑めないと言っているのに勧めるんですか、副支店長にもなってそのくらいわからないですか。」と言い、同人との間で数分間口論になった。

原告は、同人に対し、午後一一時ころ、別れ際に、「後で電話しますから。」と言い、同夜、同人の帰宅した時間を見計らって電話したが、原告が、「淡路支店の甲野です。」と話した途端電話は切られた。それ以降、原告が同人宅に電話した事実はない。

3  抗弁3について

同3のうち、平成三年三月六日、原告が、高木に対し、お客用フロアの照明が点いていなかったため、「高木照明付けてくれ。」と頼んだことは認め、その余は否認する。

高木が、原告の右依頼に対処しようとしなかったため、両者の間で口論となったが、同僚の取りなしですぐに納まった。その際原告はミーティング終了後に話をしようと伝えたが高木はその機会を持とうとしなかったため、その後、同人宅に電話をかけ、同人の妻に対し、「職場内のトラブルは職場で解決するように言っておいてほしい。」と伝えたことが一度あるだけである。

4  抗弁4について

同4のうち、原告が、平成三年九月一八日、西村の運転する自動車に同乗中、右自動車が斜面を走行したため、紙コップに入れていたコーヒーがこぼれて原告の衣類にかかったことは認め、その余は否認する。

右の際、コーヒーがこぼれたにも拘わらず、西村が笑ってばかりで原告に対して謝ろうとしなかったため、原告は、同人に対し、「私服のズボンだったら一万円くらいかかる、制服でよかった。」、「どうして自分はすいませんと謝罪しないのか。」、「誠意とはどういうものか考えとけよ。」と話し、同日、西村宅に電話して同人の妻に経過を説明の上、「ご主人に誠意とはどういうものか考えとくように。」と伝えた。西村宅への電話はこの一回だけである。

5  抗弁5について

すべて否認する。

獅子田は、かねてから、女性従業員の髪の毛を触る行為が営業所で問題にされていたところ、原告は、平成四年一月二六日ころ、同人に対して、「特定の女の子の髪の毛を触るのはセクハラになるので止めて下さい。」と申し出たが、「全面戦争云々」などという話しはしていない。

また、原告は、獅子田宅に電話して、同人の妻に、「ご主人が特定の女性社員の髪の毛に触ったりしているが、女子社員はホステスではないのでやめるように注意してほしい。」と伝えた。獅子田宅への電話はこの一回だけである。

6  抗弁6について

同6のうち、原告が、山添に対し、平成四年一一月九日、訃報連絡箋を回覧するように指示したにも拘わらず、時間が到来しても同人が右回覧をしていなかったため、同人を促そうとして、手の甲で同人の頭部をコツンと軽く一回叩きながら早く回覧するように指示したこと、それでも同人が椅子に座ったまま動こうとしないので、同人を促すために、椅子に座ったままの同人の両肩部分を持ち上げるようにした結果、同人の襟の部分が衣服にすれて首の一部が少し赤くなったこと、原告が罰金七万円に処せられたことは認めるが、その余は否認する。

なお、原告が、山添を持ち上げるようにしたとき、原告が同人の股間あたりを蹴るような仕種をしたことはあるが、「股間を蹴り上げ」たりした事実はない。

7  抗弁7について

同7のうち、山添が「愛のムチありがとうございました。今後ともご指導よろしくお願いします。」との文書を作成したことは認めるが、原告が、同7記載の各文書作成を強要したとの主張は否認する。

8  抗弁8について

同8のうち、山添が平成五年四月一三日ころ、職転(ママ)希望調書を作成し、被告に対して提出したことは認め、その余は否認する。

原告は、同人に対し、同日、「どういう仕事に就きたいのか。」と尋ねたところ、同人から、「総務です。」という答えがあったので、総務の担当者に転職希望調書を渡してやってほしいと連絡しただけであり、それ以外に山添の右調書に関与していない。

9  抗弁9について

同9のうち、山添が、平成五年四月一六日ころ、本件誓約書を作成したことは認め、その余は否認する。

山添が、ポケットベル入荷について顧客とトラブルを起こしたことについて、同僚に謝って回っていたので、原告は、同人に対して、業務に対して不退転の決意で臨んでいるという姿勢をミーティングで示してはどうかと提案したところ、同人は、「甲野さんにおまかせします。」と言ったので、原告の助言のもと、山添が自ら右誓約書を作成したのである。

原告は、山添の勤務態度を改めさせ、引き続き営業において勤務できるようにさせてやりたいとの思いから、同人と相談し、同人もこれに同意して誓約書を作成したものである。

10  抗弁10について

同10(一)のうち、平成五年四月一九日、山添が誓約書を読み上げなかったこと、同10(二)のうち、原告が同日昼の休憩時間に、会社町(ママ)内の食堂ドアに本件誓約書と向阪に対する抗議ビラを一枚貼付し、さらに抗議ビラ各一枚を、食堂コーラの自動販売機、男子休憩室に、数枚を東淀川営業所周辺の電柱に貼付したことは認め、その余は否認する。

同10(二)は、原告が、山添の決意を改めて明らかにさせるとともに、向阪や被告が同人を営業職場から排除しようとしていることに抗議するためにしたものであって、庁内のビラは、同日午後、高橋及び松崎総務課長の要請により、原告らにおいてこれを剥がした。

11  抗弁11について

同11のうち、被告が、平成五年四月二一日、原告の同意なく社外のビラを剥がしたこと、原告が同日午後、有給休暇を取得して午後二時ころ、同11記載の各ビラを、東淀川営業所周辺及び淀川支店周辺などに数枚ずつ、合計十数枚貼付したことは認め、その余は否認する。

12  抗弁12について

原告が、山添に対し、平成五年四月二一日午前八時すぎころ、更衣室において、「総務から出ていけ、営業に帰れ。」と言ったことはあるが、手を出したなどの事実はすべて否認する。

13  抗弁13について

原告が、平成五年四月二二日出勤途上、山添従業員の地位を保全するためビラを数枚貼付したことは認める。

しかし、原告は、河村淀川副支店長からのビラ貼り中止の申入れに応じ、その後ビラ貼りを行っていない。その際、原告は、同副支店長に対し、ビラを貼付した場所を自主的に明らかにし、自ら剥がす旨を申し入れた。

14  抗弁14について

否認する。

原告が、懲戒処分を受けるまでの間に、被告から注意を受けたのは、抗弁6の事実に関して、当日(平成四年一一月九日)午後、獅子田から指導に行き過ぎがあるのではないかといって口頭で注意があり、翌日、木村支店長及び藤井副支店長からも同様に口頭で注意があっただけである。

15  抗弁15について

認める。

五  原告の反論(本件解雇の違法性)

1  労働者の身分を喪失させ、かつ、退職金などについても制裁的措置を取るときには、懲戒処分を行った際に明示されている事由以外の事由をもって解雇事由とすることは許されないところ、被告会社は、本件解雇において、原告に対して交付した辞令書記載の事由以外の事由をもって解雇事由とするものであるので、右解雇は、違法無効である。

2  本件解雇は、原告に何らの弁明の機会も与えないままなされたものであって、違法無効である。

3  本件解雇は、処分の公平・適正という見地からして明らかに均衡を失しており、違法無効である。また、本件解雇は、解雇権の濫用であるので、無効である。なお、被告は、原告の平成四年一一月九日の暴行行為に対し、譴責ないし訓告の懲戒処分をしたので、本件解雇に当たり、右事由を、重ねて諭旨解雇事由とすることは、二重処分に該当し、許されない。

第三証拠

証拠については、本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

第一請求原因について

請求原因は、当事者間に争いがない。

第二抗弁(解雇)について

一  抗弁1(和田に対する恐喝等)について

1  当事者間に争いのない事実に、成立に争いのない(証拠・人証略)及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実を認めることができる。

(一) 原告は、平成二年二月ころ、被告会社大阪淡路支店お客様サービス部において営業を担当していたが、西吹田電話局勤務当時に原告の上司であった今川が淡路ネットワークセンターに部長として赴任してきたので、同月二〇日、同人に挨拶のため、右センターに赴いた。

原告は、同所で、池田に今川の所在を尋ねたが、今川の席にすぐに辿り着くことができなかったため、同人への挨拶を済ませた後、池田の席に戻り、同人に対し、「ちゃんと教えろ言うたやろ。」などと大声で怒鳴りつけた。

和田は、池田の横の席にいたが、原告が先に同人に今川の所在を尋ねた際に自席から離れていたため、原告のことを知らなかったことと、原告の職場内での大声に驚いたことから、北野と共に、原告と池田の間に割って入り、原告に対し、「職場で大声を上げるとは何事か、どこの誰か。」と問いただした。すると、原告は、和田に対し、「淡路の営業の甲野や。」、「この喧嘩お前が買うんやな。」と答えて、和田との間に押し問答がなされたが、その場に今川部長が来て原告をなだめたので、その場は納まった。

(二) しかし、原告は、その後、和田の自宅の電話番号を調べ、同年三月に入ってから、和田の自宅に対して、毎晩一回ないし二回、合計約一〇回程度、夜間に無言電話を架けるようになり、同月一〇日(土曜日)午前九時三〇分ころには、淡路支店の自席の業務用電話機から、和田の自宅に電話を架け、たまたま同人が不在で電話に出た同人の妻に対し、「旦那を出せ。」、「旦那のした行為は許せない、妻、子供、両親で俺の前で土下座して謝れ。」と、威圧するような口調で話し、「すぐに連絡してこい。」と申し向けて一旦電話を切った。しかし、和田から自席に連絡がなかったことから、原告は、さらに重ねて二、三回、和田の自宅に電話を架け、同人の妻に対し、早く連絡するように言った。

和田は、午前一〇時すぎになって、横田淡路副支店長及び高橋労務厚生課長からの連絡で、淡路支店の原告の席に赴き、同支店の休憩室で、原告と、話合いをすることになった。

(三) 原告は、和田に対し、右休憩室内で、「この喧嘩、あんたが買うた。このオトシマエどうつけるのか。」、「あんたのしたことは、家族全員に責任がある。妻、子供、両親を連れてきて俺の前で土下座して謝れ。」と言い、他の解決方法を尋ねた和田に対し、「一〇万円ぐらいだけど、半分に負けておく。」、「月賦でもよい。」と金員の支払を要求した。

なお、その後、原告と和田との間の右紛争は、木村支店長が原告と話し合ったため、和田は右金員を支払うことなく決着した。

2(一)  以上認定の事実に対し、原告は、池田総務課長の席に再度戻ったときに、和田らが事情も聞かないまま原告を怒鳴りつけたと主張し、また、原告は、和田に対して金員の要求もしていない旨主張し、(証拠略)、原告本人尋問の結果中にはこれらの主張に沿う部分がある。

(二)  しかしながら、右各証拠も、原告が淡路ネットワークセンターで今川部長の所在を尋ねたことに端を発した、原告と和田との間の紛争が存在すること、原告が、平成二年三月一〇日、和田の自宅に複数回電話を架けたこと、淡路支店の休憩室で原告と和田が話合いを持ち、その際、解決方法として金銭(五万円)についても言及がなされたことについては認めているところ、右紛争の性質に比して原告の右対応ははなはだ執拗であり、その余についても、前記認定の事実に徴すると、右各証拠はいずれも不自然不合理であって、到底信用することができず、他に右認定に反する証拠はない。

(三)  したがって、被告の、原告の右行為を就業規則六九条四項(職務上の規律を乱し、又は乱そうとする行為)、一一項(社員として品位を傷付け、又は信用を失うような非行)、一三項キ号(会社施設内において、風紀秩序を乱すような言動)に該当するとの判断は相当である。

二  抗弁2(生駒に対する嫌がらせ電話)について

1  前掲(証拠・人証略)、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。

(一) 生駒は、平成三年二月当時、被告会社大阪淡路支店の四名の副支店長のうちの一人であったが、同月六日、部下一、二名と共に飲酒し、二軒目に居酒屋「こぞう」に入ると、原告が山田営業部長と二人で同店で飲酒していたので、右原告らも生駒と合流して飲酒することとなった。

(二) しかし、飲酒歓談しているうちに、生駒が、良い仕事をしようと思えば、家庭を持つ人生が大切であるといった趣旨の発言をしたところ、原告は、生駒の右発言に立腹し、その日の夜一二時ころ、生駒の自宅に電話を架け、生駒が不在であったため電話口に出た同人の妻に対し、「生駒の家か。」と乱暴な言葉遣いで話しかけて、生駒の妻を畏怖させた。さらに、原告は、その後も、淡路支店の自席の業務用電話機も利用して、生駒の自宅に多数回にわたって電話を架け続けたため、生駒が電話を使おうとしてジャックを入れると、すぐに電話が鳴りだすという状態になり、生駒は、事実上、自宅で電話機を使うことができなくなった。

原告の右架電行為は、今川が原告に対し、同月二五日、生駒への嫌がらせを止めるよう説得して、原告がこれを受け入れるまで続いた。

2(一)  以上認定の事実に対し、原告は、「こぞう」で生駒が無理に酒を勧めたために口論になったのであって、その後、生駒の自宅には一度しか電話を架けていない旨主張し、(証拠略)、原告本人尋問の結果中にはこれに沿う部分がある。

(二)  しかしながら、これらによっても、原告が、「こぞう」での事件後、午後一二時という遅い時刻に生駒の自宅に電話を架けたことについては認めており、さらに、前記認定の事実に徴すると、右各証拠はいずれも不自然不合理であって、到底信用することができず、他に右認定に反する証拠はない。

(三)  したがって、被告の、原告の右行為が就業規則六九条五項(故意に業務の正常な運営を妨げる行為)、一一項(社員として品位を傷付け、又は信用を失うような非行)に該当するとの判断は相当である。

三  抗弁3(高木に対する恐喝行為)

1  当事者間に争いのない事実に、(証拠・人証略)、原告本人尋問の結果(一部)を総合すると、次の事実が認められる。

(一) 高木は、平成元年四月以来、被告会社大阪淡路支店の営業担当として勤務していたものであるが、原告は、平成三年三月六日朝八時三〇分ころ、同僚の伊原従業員と共に受付席に設置されていたコンピューターの立上げ作業を行っていた高木に対し、フロアの照明をつけるよう命令口調で言った。

高木は、右立上げ作業中でもあったことから、原告に対し、「私も遊んでるんちゃいますねんで。」と答えたところ、原告は、高木の右発言に激怒し、「なんやとコラ、誰に言うてんねん。」と怒鳴りながら高木の近くに走り寄り、受付席のお客様用の椅子を持ち上げて、高木にぶつけようとしたが、他の支店の従業員らに止められて、椅子をぶつけることはできなかった。

(二) 原告は、右事件後、淡路支店の自席の業務用電話機を利用して高木の自宅に電話を架け、電話口に出た高木の妻に対し、会社での出来事を伝えたうえ、今から高木の自宅に向かうので、道順を教えるように申し向けたばかりでなく、右自席の電話機のワンタッチダイヤル機能(特定の電話番号を予め電話機に登録しておき、特定のボタンを押すだけで右特定の電話番号に架電できる機能)に高木の自宅の電話番号を登録し、そこから、多数回にわたって高木の自宅に電話を架けた。

(三) 原告は、数日後、高木を淡路支店の自席に呼び出し、自席の電話機のワンタッチダイヤルボタンを押して、そこに高木の自宅の電話番号が登録されていることを示した後、高木を同支店の応接室に連れて行き、許してほしければ妻、兄弟、親全員呼んで、全員で土下座して謝るか、誠意を見せろ、さもないと、高木の妻、兄弟、親全員を攻撃して全員廃人にしてやる、と発言した。

さらに、原告は、誠意の内容について尋ねた高木に対し、「今まで俺とトラブルがあって、俺が受け取った誠意は、平均して五〇万くらいや。」、「まあお前は若いし、一〇万で勘弁してやる。一度に無理なら月々一万でもかめへんぞ。」と金員の支払を要求した。

高木は、その場では対応を留保していたが、原告は、四、五日後の宴会の席で、高木に対し、「お前を許したわけではないが、しばらく休戦にしたろう。」と言い、結局、高木は右金員を支払わずに終わった。

2(一)  以上認定の事実に対し、原告は、高木の自宅に電話を一回架けた以外の事実を否認し、(証拠略)にはこれに沿う部分があるばかりでなく、(証拠略)、原告本人尋問の結果中には、むしろ、高木が原告に先に殴りかかった旨の供述がある。

(二)  しかしながら、右各証拠は、職場のことは職場で解決してほしい旨、高木の自宅に架電するという自家撞着を示すなど、いずれも不自然不合理であって、前記認定事実に徴し、到底信用することができず、他に右認定の事実に反する証拠はない。

(三)  したがって、被告の、原告の右行為が就業規則六九条一一項(社員として品位を傷付け、又は信用を失うような非行)、一三項キ号(会社施設内において、風紀秩序を乱すような言動)に該当するとの判断は相当である。

四  抗弁4(西村に対する恐喝行為)について

1  当事者間に争いのない事実に、前掲(証拠・人証略)、原告本人尋問の結果(一部)を総合すると、次の事実を認めることができる。

(一) 原告は、平成三年四月、被告会社淀川支店お客様サービス部東淀川営業所の営業担当に配属となり、同年九月一八日、西吹田営業所に西村と共に行った際、同営業所でコーヒーを出された。西村は、この時、コーヒーを同営業所内で飲み終えたが、原告は、コーヒーを紙コップに入れたまま自動車に戻り、西村が運転する右車両の助手席に座った。

しかし、西村が、右車両を発進させて方向転換をする際、車両が揺れたため、原告の持っていた右紙コップの中のコーヒーが原告の足元にこぼれ、原告のズボン、靴下などにかかった。原告は、ティッシュペーパーでこれを拭ったが、西村は、原告に「大丈夫ですか。」と声をかけただけであった。

(二) 原告は、西村の右対応に立腹し、同月二一日朝、西村に対し、靴下代名下に一〇〇〇円、迷惑料名下に一万円の金員を支払うよう要求し、西村が即答を避けたことから、同日の午後には、迷惑料を五万円に変更して、その支払を求めるに至った。

西村は、原告の右金員支払要求を所長の獅子田に報告し、同月二四日には原告に対して金員支払を拒絶する旨伝えたところ、原告は、同日の午後、東淀川営業所の自席の業務用電話機を利用して、西村の自宅に電話を架けて、電話口に出た同人の妻に対し、西村の責任は妻の責任であるなどと申し向けた。西村から報告を受けた獅子田は、同日、原告に対し、西村に対する嫌がらせをやめるよう指導したが、原告は、その後も同人の自宅に多数回にわたって電話を架け続けた。

原告は、同月二五日ころ、東淀川営業所の西村の面前で、西村の娘が通う中学校と高校に電話を架け、娘の父に迷惑を掛けられているものである旨を各学校の教師に伝えたほか、同年一一月二七日には、西村の自宅前に赴き、帰宅した同人に対し、誠意を見せろ、逃げ得は許さない、などと抗議し、さらに、同人宅の郵便受けに、同人を非難する内容のビラ数枚を投函していった。

原告の西村に対するこのような嫌がらせは、同月二九日、原告が西村に対し、この件について終結する旨宣言するまで継続した。

2(一)  以上認定の事実に対し、原告は、西村がコーヒーをこぼしたことについて謝罪しなかったので、その誠意ある謝罪を求めただけであって、同人に対して金員を要求するなどの行為はしていない旨主張し、(証拠略)、原告本人尋問の結果中にはこれに沿う部分がある。

(二)  しかしながら、これらによっても、原告は、コーヒーがこぼれた事件後二か月余りの間、西村に対して執拗にその謝罪を求め続け、ついには、同人の自宅にビラを持って赴いたことを自認しているばかりでなく、右各証拠はいずれもその内容が不自然不合理であることから、前記認定事実に徴して到底信用できず、他に右認定事実に反する証拠はない。

(三)  したがって、被告の、原告の右行為は就業規則六九条一一項(社員として品位を傷付け、又は信用を失うような非行)に該当するとの判断は相当である。

五  抗弁5(獅子田に対する脅迫行為)について

1  前掲(証拠・人証略)、原告本人尋問の結果(一部)を総合すると、次の事実を認めるとができる。

(一) 原告は、東淀川営業所長の獅子田に対し、平成四年一月二三日、新年会の席において、同営業所の千葉主査(以下「千葉」という。)は無能であるから、所長室に置いて直接獅子田が指導すべきである旨を申し出たところ、獅子田は、それよりも原告を所長室に置いて、原告の行動がよく分かるようにした方がよい旨答えた。

(二) 原告は、獅子田の右発言に立腹し、同月二四日、同営業所の所長室に突然入ってきて、獅子田に対し、「千葉を側に置くより、俺を側に置いた方がよいと言ったので、今日からここで仕事をする。」と言ってきた。そこで、獅子田は、原告に対し、千葉の指導の仕方等について話をしたが、原告は、その中で、獅子田が原告を「お前」と呼んだことに激怒し、獅子田に不祥事があると言い、さらに、「全面戦争だ、徹底的にやる、俺は戦争だと言ったら徹底的にやるからな。」と大声を出した。

獅子田が自己の不祥事について尋ねると、原告は、かねてから獅子田が部下との応接の方法として女子従業員の髪の毛を触ったことがあったことを取り上げ、「お前は、営業の女子社員の髪の毛を触っている、あれはセクハラだ。会社の女子社員はアルサロのホステスと同じなのか、所長が触ってよいというのなら、俺も触っていいんだな。」と発言したばかりでなく、獅子田の面前で淀川支店長の木村に電話を架け、獅子田がセクハラを行っている旨を報告した。

このため、獅子田は、同日、木村に状況を説明するために淀川支店に赴いたが、原告は、その間に、東淀川営業所から獅子田の自宅に電話を架け、電話口に出た獅子田の妻に対し、獅子田が女子従業員の髪の毛を触っていること、などを伝えた。

2(一)  以上認定の事実に対し、原告は、獅子田の行動がかねてから東淀川営業所で問題とされていたので、それをやめるよう申し出たにすぎない旨主張し、(証拠略)、原告本人尋問の結果中にはこれに沿う部分がある。

(二)  しかしながら、これらによっても、原告は、獅子田の面前で木村に直接電話をして獅子田の行動を報告していること、原告が同人の妻に架電のうえ、同人の行動について伝えたことを自認しているところ、原告の右各行動は、いずれも会社職場内の秩序維持の観点からしても尋常であるとは言い難く、その余の部分についても、前記認定の事実に徴して到底信用することができず、他に右認定の事実に反する証拠はない。

(三)  したがって、被告の、原告の右行為は就業規則六九条一一項(社員として品位を傷付け、又は信用を失うような非行)、一三項キ号(会社施設内において、風紀秩序を乱すような言動)に該当するとの判断は相当である。

六  抗弁6(山添に対する平成四年一一月九日の暴行行為)及び同7(山添に対する同日及び同月一一日の強要行為)について

1  当事者間に争いのない事実に、前掲(証拠・人証略)、原告本人尋問の結果(一部)を総合すると、次の事実を認めることができる。

(一) 原告は、平成四年九月ころから、同じ東淀川営業所の営業担当として勤務していた山添の勤務姿勢に不満があったことから、同人に対して指導を行う旨宣言し、右指導の名のもとに、同人に対して乱暴な言葉遣いで叱責を加えたり、勤務姿勢に関する誓約書を書かせたりするようになった。

(二) 原告は、山添に対し、同年一一月九日午前九時三〇分すぎころ、東淀川営業所内において、計報連絡の書類をコピーして、至急回覧に付するように依頼した。しかし、山添は、午前一〇時ころになっても、右回覧を行わなかったため、これに立腹した原告は、同人を叱責しながら同人の席に赴き、自席の椅子に座って右訃報連絡の書類に回覧のスタンプを押していた同人の左頭部を二、三回強くたたいた。山添は、従前から原告の指導と称する一方的な叱責等を快く思っていなかったので、原告の右行為に対し、「警察を呼びますよ。」と言ったところ、原告は、同人の右発言に激怒し、「なにー。」と言いながら、同人の衣服の両襟付近をつかんで引っ張り、同人を椅子から立ち上がらせて同人の頸部に擦り傷を負わせた上、同人の下腹部に膝蹴りを加えた。

(三) 原告が右暴行を加えた際、付近にいた土生田従業員が、「暴力はやめてください。」と叫び、また、向阪らも原告の右暴行に気が付いて原告と山添の間に入ったため、原告は、山添に対し、それ以上の暴行を加えなかった。

しかし、原告は、同日午前一一時少し前ころ、山添を東淀川営業所一階の応接室に呼び出し、同人に対し、右暴行行為について、「お前が戦う気やったら、俺はとことんやるぞ。」と恫喝した上、あらかじめ自ら作成しておいた「愛のムチありがとうございました。今後とも御指導よろしくお願いします。」との内容のメモを示し、拒絶すると何をされるか分からないと畏怖している同人に、右内容の文書を強要して書かせた。

(四) 原告は、同月一〇日、淀川支店に呼び出され、木村支店長から右暴行行為について、口頭で厳重注意を受け、その際、右支店長に対し、二度と誰に対しても暴力を振るわない旨の誓約書を作成し、これを提出した。

そして、原告は、同月一一日、拒絶すると何をされるか分からないと畏怖している山添に対し、「甲野さんが私に暴力をふるった様に言われてますけど、あれは愛のムチです。暴力ではありません。今後とも甲野さんに御指導をお願いするつもりです。」との内容の文書を作成するよう強要し、同人が作成した右文書を木村支店長に提出した。

(五) 原告は、山添に対する右暴行行為につき、平成六年一月二四日、大阪簡易裁判所において、暴行罪により七万円の罰金刑に処せられた。

2(一)  以上の事実が認められるところ、原告は、山添の頭部を軽く手の甲でたたき、同人の両肩付近を持ち上げるようにしただけであるとして、同人に対して膝蹴りを加えた事実を否認し、また、山添が作成した各文書はいずれも原告が強要したものではない旨主張し、(証拠・人証略)及び原告本人尋問の結果中にはこれに沿う部分がある。

(二)  しかしながら、原告は、淀川支店長に対し、右暴行事件の翌日には二度と暴力を振るわない旨の誓約書を提出していること、(証拠略)(平成五年五月七日付け司法巡査に対する供述調書)、(証拠略)(同年一二月二日付け検察官に対する供述調書)で、山添に対して膝蹴りを加えたことを認めており、右司法巡査に対する供述調書については自ら閲読したうえで署名捺印している旨自認していること、右山添に対する暴行による略式命令を甘受していること、右各文書の文言及びその作成時期に照らすと、これらを山添が自発的に作成したとは到底考え難いこと、前掲の各(証拠略)は、いずれも本件裁判が開始して後に作成されたものであること、ことに、右司法巡査に対する供述調書の成立に関する(証拠略)は、本件裁判の口頭弁論終結間際になって作成されたものであって、それまで右各供述調書に対する異議は全く出されていなかったばかりでなく、その内容も不自然不合理であることに照らすと、前掲の各証拠は、前記認定事実に徴して、いずれも到底信用することができず、他に右認定の事実に反する証拠はない。

(三)  したがって、被告の、原告の前記1(二)及び1(五)の行為は就業規則六九条一項(法令に違反したとき)、一一項(社員として品位を傷付け、又は信用を失うような非行)、一三項キ号(会社施設内において、風紀秩序を乱すような言動)に該当し、前記1(三)及び1(四)の行為は同条一一項、一三項イ号(強要して、その就業を妨げたとき)、同項キ号に該当するとの判断は、いずれも相当である。

七  抗弁8(山添に対する平成五年四月一三日の強要行為)について

1  当事者に争いのない事実に、前掲(証拠・人証略)、原告本人尋問の結果(一部)を総合すると、原告は、前記暴行行為の後も、山添に対する指導と称する叱責等を加えていたが、平成五年四月一三日、同人の勤務姿勢に改善が見られず、同人は東淀川営業所には無用の人物であるとして、転職希望調書を取得のうえ、同人の意思を無視して、拒絶すると何をされるか分からないと畏怖している同人を強要して、右調書に総務課への転職を希望する旨を記入させ、さらに、右調書を東淀川営業所の総務担当課長である松崎に提出させ、後に同人から右強要行為について注意を受けた事実を認めることができる。

2(一)  右認定事実に対し、原告は、山添は右転職希望調書を自発的に記入のうえ、提出したものであって原告が強要したものではない旨主張し、(証拠略)及び原告本人尋問の結果中にはこれに沿う部分がある。

しかしながら、右証拠によっても、原告は、山添の右調書提出に原告が関与した旨を自認していること、原告が従前から山添に指導と称して様々の叱責や暴行、強要行為を加えていたことは前記認定のとおりであることから、前記認定の事実に徴して、右各証拠は到底信用することができず、他に右認定の事実に反する証拠はない。

(二)  したがって、被告の、原告の右行為は就業規則六九条一一項(社員として品位を傷付け、又は信用を失うような非行)、一三項イ号(強要して、その就業を妨げたとき)、同項キ号(会社施設内において、風紀秩序を乱すような言動)に該当するとの判断は相当である。

八  抗弁9ないし同13(平成五年四月一六日から同月二二日)について

1  当事者間に争いのない事実に、前掲(証拠略)、弁論の全趣旨により被告主張の撮影者が各撮影年月日に撮影した、その付陳に係る内容の写真であることが認められる(証拠略)に弁論の全趣旨を総合すると、次の事実を認めることができる。

(一) 山添は、平成五年四月一五日、仕事上の失敗から、向阪及び高橋と共に、顧客方へ謝罪に行ったり修理のため預かっていた電話機を取付けに赴くということがあった。

原告は、山添の右失敗に立腹し、同日、顧客方から帰社した同人に対し、「もうお前は営業の部屋に入るな。」などと言い、さらに、同月一六日(金曜日)、西吹田営業所に出張していた山添を強引に東淀川営業所に呼び戻したうえ、拒絶すれば何をされるか分からないと畏怖している同人に、原告があらかじめ用意しておいた原稿に従って、「本日から心を入れかえて基本動作基本作業を確実に実行します。以前とかわらなければ責任を取って退職いたします。その時期は甲野さんにおまかせします。」との本件誓約書を書くように強要してこれを書かせたばかりでなく、本件誓約書を、東淀川営業所二階で他の従業員一人一人に対して声を出して読み上げるよう強要して、これをさせた。

原告は、さらに、山添に対し、本件誓約書を、同月一九日(月曜日)の朝のミーティングで読み上げるように言った。

これを知った高橋は、原告を所長室に呼んで、再三にわたり、原告に対し、山添に右誓約書の読み上げの強要をすることを中止するよう、厳重に注意し、説得したが、原告はこれを全く聞き入れなかった。

(二) 山添は、本件誓約書をミーティングで読み上げることについて向阪に相談したところ、同人は、平成五年四月一九日早朝、自分の人生は人に委ねるものではなく、本件誓約書を読み上げるようなことはしないよう助言した。

原告は、山添に対し、同日朝八時四〇分からのミーティングで、本件誓約書を読み上げるように命じたが、山添は、本件誓約書の「本日から心を入れかえて基本動作基本作業を確実に実行します。」という部分は読み上げたが、その余は読み上げず、代りに「一生懸命頑張りますのでよろしくお願いします。」と言うにとどめた。原告は、山添が本件誓約書を記載のとおりに読み上げなかったことに立腹し、山添に対し、「誓約書の内容と違う。字も読めないのか。脳の移植をしてもらえ。」等の暴言を吐いたうえ、同人をミーティングの会場から追い出し、自ら本件誓約書を読み上げて、正常なミーティングを実施できなくした。また、原告は、以後、営業所内で山添に会う度に、同人に対し、「出て行け。」などと怒鳴りつけるようになった。

また、原告は、同日午前九時からのミーティングでは、「これは誰かの入れ知恵だ。入れ知恵したやつを徹底的にやる。山添を退職に追い込む。」と発言し、本件誓約書のコピー二通を、東淀川営業所内に貼りだした。

淀川支店の白子匡博部長(以下「白子」という。)や高橋らは、当日、原告に対し、原告の右各行動について注意を与えたが、原告は、これを受け入れようとしなかった。

(三) 原告は、その後、山添から、本件誓約書を読まないように指示したのが向阪であることを聞き、同月二〇日朝のミーティングで、向阪に対し、同人は山添を原告に逆らわせ、原告の性格を利用して同人を退職に追い込もうとしているなどと同人を追及した。さらに、白子及び高橋がビラ貼りをしないよう指示を与えたにもかかわらず、原告は、同日、「NTT東淀川営業所の課長「向阪」は社員の山添をワナにはめて退職に追い込もうとしている。」と記載した本件ビラ1を作成し、本件ビラ1二枚と、本件誓約書のコピー数枚を、東淀川営業所内に貼りだした。

さらに、原告は、鈴木に社用車を運転させて阪急電鉄の下新庄駅及び上新庄駅付近に赴き、右各所の電柱に合計六枚の右ビラを貼りだしたが、鈴木に対しては、右ビラ貼りだしの件を話さないように口止めをしておいた。なお、右六枚のビラは、当日の夜、いずれも高橋、松崎らによって剥がされた。

(四) 原告は、平成五年四月二一日午前八時二〇分ころ、右六枚のビラが剥がされていることに立腹し、東淀川営業所長の所長室に行き、在室していた高橋、向阪らに対し、「ビラを剥がしたのはお前らやろ。それなら更にビラを増やす。」と怒鳴りつけてから、同営業所三階の更衣室に向かった。

(五) 原告が右更衣室で制服に着替えていると、山添が、午前八時二五分ころ、やはり着替えのために更衣室に入ってきた。原告は、山添に気が付くと、「お前何しに来たんや。出て行け。」と大声を出しながら、両手で山添の前襟付近をつかんで同人を引っ張り、さらに、右足で同人の下腹部付近を蹴ったところ、山添は、右手でこれを防ごうとしたため、原告の右足は同人の右手甲に当たり、この結果、同人は、右手甲に通院加療七日間を要する右手関節打撲の傷害を負ったほか、原告は、山添の大腿部を後ろから一回蹴った。

(六) 原告は、被告側が本件ビラ1を剥がしたことに立腹し、同日、東淀川営業所内で、本件ビラ1に向阪の自宅の電話番号と「自宅に抗議の電話をかけてください。」との記載を加えた本件ビラ2を作成したばかりでなく、右ビラ撤去を表現の自由の侵害として、「NTT東淀川営業所長の「高橋義昭」は憲法違反をした。自宅に抗議の電話をかけてください。」と記載のうえ、高橋の自宅の電話番号を付記した本件ビラ3を作成し、同日午後から有給休暇を取得して、右ビラ合計二六枚を、上新庄駅周辺、下新庄駅周辺及び高橋の自宅のある吹田市千里山周辺に貼りだした。

(七) 原告は、平成五年四月二二日朝、下新庄駅から東淀川営業所に出勤する途中の電柱等に、本件ビラ2及び同3を合計六枚貼りだした。

2(一)  以上認定の事実に対し、原告は、本件誓約書は強要して書かせたものではなく、平成五年四月一九日のミーティングで暴言を吐いたこともなく、同月二一日には、山添に対して暴力を振るっていない旨主張し、(証拠略)及び原告本人尋問の結果中にはこれに沿う部分がある。

(二)  しかしながら、原告が従前から指導と称して山添に暴行を働くなどしていたことは前記認定のとおりであること、本件誓約書の文言に照らして、山添がこれを自発的に書いたり、他の従業員の前で読み上げるなどということは考え難く、また、内容的にも、自己の退職という一身上の重大事を原告の一存に委ねるという異常なものであること、右各証拠によっても、原告は本件誓約書の作成に関与していたことを自認していること、(証拠略)(診断書)が存在すること、本件各ビラの文言から、これらがいずれも向阪及び高橋に対する強固な抗議行動であると窺えることから、前記認定の事実に徴して、右各証拠はいずれも到底信用することができず、他に右認定の事実に反する証拠はない。

(三)  したがって、被告の、原告の1(一)の行為は就業規則六九条四項(職務上の規律を乱し、又は乱そうとする行為)、一三項イ号(強要して、その就業を妨げたとき)、同項キ号(会社施設内において、風紀秩序を乱すような言動)に、原告の1(二)及び1(三)の行為は同条四項、一三項イ号、同項カ号(会社施設内において、許可なく貼紙、掲示)に、原告の1(三)の行為は同条三項(上長の命令に服さない)、四項、一一項(社員として品位を傷付け、又は信用を失うような非行)、一三項ア号(みだりに執務場所を離れ、勤務時間を変更)、同項イ号、同項カ号、同項キ号に、原告の1(四)及び1(六)の行為は同条三項、一一項、一三項ア号、同項キ号に、原告の1(五)の行為は同条一一項、一三項キ号、同条一項に、原告の1(七)の行為は同条三項、一一項に、それぞれ該当するとの判断は相当である。

九  抗弁14について

前記認定の各事実によれば、原告は、多年にわたり、上司、同僚に対して嫌がらせ、恐喝、強要、暴行行為を重ねるなどして、被告会社の秩序風紀を乱し、職場規律の維持及び正常な業務運営を妨げてきたものであって、その間、上司からも再三、注意を受けながら、さしたる反省をすることなく経過してきたものであるというべきであるから、被告が、原告に対して就業規則六九条一四項(再三注意されてなお改悛の情がない)に該当すると判断したことは相当である。

一〇  抗弁15

抗弁15の事実は当事者間に争いがない。

第三原告の反論について

一  成立に争いのない(証拠略)によれば、被告会社は、平成六年一〇月一三日、原告に対し、本件解雇をするに当たり、その交付に係る辞令書には、その解雇理由として、「平成二年二月下旬、大阪淡路支店お客様サービス部在職中、大阪淡路ネットワークセンター労務厚生課長に対するいやがらせ行為をはじめ、平成四年一一月九日東淀川営業所において、同僚社員に対し暴行を振るったことにより、平成六年一月二四日暴行罪により罰金刑に処せられ、さらに、平成五年四月一九日から二二日にかけて、同僚の誓約書、所長・課長を誹謗中傷するビラを社内外に掲出するなど、過去三年間にわたり、勤務時間の内外を問わず、会社の秩序風紀を乱し、職場規律の維持及び正常な業務運営を妨げる行為を反復継続し、惹起せしめた」ことが記載されていることが認められ、右事実によれば、被告会社は、本件解雇に当たり、具体的に摘示した原告の各行為のほか、過去数年間にわたる原告の数々の行為を包括して摘示して、これを解雇事由として告知したことが認められるところ、これは、被告会社が本訴において原告に対する解雇事由として主張する抗弁1ないし14の各事由を包摂するものであるということができるので、原告の反論1は理由がない。

二  (証拠略)によれば、被告会社の就業規則上、被告会社が社員に対し懲戒処分をなすに当たり、社員の弁明を聴取すべき旨の定めはないことが認められるので、仮に、被告が原告に対し右弁明の機会を与えなかったとしても、そのことは、何ら本件解雇の効力に影響を及ぼすものではない。また、前記認定によれば、原告の各行為は、その内容及び態様並びにその回数等に照らし、原告の余りの無軌道振りや、原告の行為が被告会社の秩序風紀を乱し、職場規律の維持及び正常な業務運営を妨げたなどの点において、極めて著しいものがあるので、被告が原告に右弁明の機会を与えなかったとしても、それのみによって、直ちに被告による原告の解雇が違法無効となるとはいえない。したがって、原告の反論2も理由がない。

三  さらに、前記のとおり、原告には、被告就業規則所定の各懲戒事由に該当する事実があり、かつ、その行為の内容及び態様並びにその回数も、尋常ならざるものがあるので、被告において、原告に対し、懲戒処分として、極刑ともいうべき懲戒解雇を選択する余地も十分にあったというべきところ、被告は、原告に対し、諭旨解雇をなすに止め、原告に対し、退職金の八割を支給すること(この点は、被告会社の認めるところである。)としたのであって、本件解雇をもって、過酷と言うべき事情はなく、処分の公平・適正のいずれの観点からみても、これを違法無効と言うことはできない。また、以上によれば、本件解雇が解雇権の濫用であると言うこともできない。したがって、原告の反論3もまた、理由がない(なお、原告は、被告が原告の平成四年一一月九日の暴行行為に対し、譴責ないし訓告の懲戒処分をしたので、本件解雇に際し、右事由を、重ねて諭旨解雇事由とすることは、二重処分に当たり、許されないと主張するが、本件において、右暴行事件に関し、被告が原告に対し譴責ないし訓告の懲戒処分をしたとの事実は(ママ)認める証拠はないので、原告の右主張は、その前提を欠き、理由がない。)。

第四結論

よって、原告の請求は、いずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中路義彦 裁判官 末吉幹和 裁判官 井上泰人)

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